みつめていたい【短編】
だけど、明日にはこの寝顔を見ることはできないんだろうなって思うと、何とも言えない寂しい気持ちになった。

急に胸がもやもやとし始めた。


ふっと車内が暗くなった。

電車が地下に潜り、停車を告げる車内アナウンスが流れた。


小さく折り畳んで読んでいた新聞を鞄にしまうサラリーマン。

開く扉の近くに移動する学生たち。


乗客の一部が降車の準備を始めているのに、目の前の彼は、目を覚ます気配がない。


私はハラハラしながら彼の動向を見守った。


速度を落とした電車がホームに流れ込み、揺れることなく滑らかに停車した。


すぐに進行方向右側の扉が開き、車内の人々はざわざわと動き始めたのに、彼はまだ起きない。
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