みつめていたい【短編】
私は思い切って彼に呼びかけた。

「あああ、あのっ!降りなくていいんですかっ?」


半分裏返って震えた私の声に反応した彼が、ばちっと目を開いた。

「今、……どこ?」

「え、M高前!!」


突然彼が勢いよく立ち上がったので、驚いた私は一歩後ろによろめいた。

「やべー……。試験の日まで遅刻するとこだった。マジ助かった、ありがと!明日もよろしく!」


彼はそう言ってニッと笑うと、閉まりかけの扉の隙間を、ひらりとすり抜けて行ってしまった。


彼が車内からいなくなった後も、しばらくの間、私の心臓はバクバクと鳴りやまなかった。


ほんの一瞬の嵐のような出来事と、明日も会えるかもしれないという希望に、私はどうしようもなく興奮していたんだ。



あの日から、私は毎朝彼の目覚まし時計をしている。
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