スピカ
「あれ?」
条件反射で、視線が浮く。
出来る限り太陽の光は拒みたいっていうのに、迷惑な話だ。道端で話しかけてくるなんて、あたしにとっちゃ迷惑行為に過ぎない。
声の主を察知して、更に気分が滅入ってしまった。
「雅ちゃん、もう学校なんだ?」
まだ8月なのに、と付け加えると、楸さんはあたしの横に足を並べた。
朝から運が悪い。条件反射とは言え、足を止めるべきじゃなかった。ただでさえ、蝉の鳴き声にイライラしているのに、楸さんと登校を共にしなくちゃならないなんて。
「そうですよ、一昨日から。楸さんこそ」
視線を上げるのさえ、面倒臭い。
眩しいから嫌というだけなのだけれど。
「俺は、大学に調べ物に行くだけ」
あっそ、と心の中で呟く。
楸さんが調べ物のために大学に行くなんて有り得ない。どうせ、女を引っ掛けに行くだけだろ。残暑にも負けず、万年元気だ、この人は。
ミーンという在り来りな鳴き声から、ジリジリと鳴く蝉が増えた。如何にも羽音って感じがする。
「いやぁ、やっぱりいいよね、制服って」
「は?」
「俺が高校生だった時は何も思ってなかったけどさ、年を取るにつれ、良さが分かってくるんだよね」
何を言ってるんだ。話してる内容はその辺のオヤジと変わらないじゃないか。
「楸さん、ロリコンだったんですか。そりゃあ、びっくりだ」
楸さんは「違うわ!」と否定したけれど、さっき自分が言った事と矛盾しているでしょうが。
暑さに頭をやられてしまったのかな。
いや、それはあたしの方か。
首を僅かに振ると、生温い風が首元を通っていった。