カセットテープ
この一件があったのにもかかわらず、未だ芝先は懲りていないようだ。
「芝先、そんなこと大っぴらに言うと、また問題になりますよ」
どうしてか、生徒であるキョウが向こう見ずな芝先を心配しないといけなかった。良い先生だから辞めてほしくないと、キョウも思うからこそ出た言葉だ。
そんな生徒の思いを余所に、いきなり神妙な面持ちに芝先がなる。
「その、先生な、各務のことちょっと誤解してたらしい」
「そうですか」
「そうなんだよ。冷たい奴だと思ってたけど、各務は違ったんだよな。そんなこと気付けないなんて先生、失格だな」
芝先は自嘲気味に笑った。
昨日、キョウが晴司の葬儀に行くため学校を黙って抜け出したことを知って、芝先はこんなことを言っているのだ。
生徒を誰よりも理解しようとする芝先にとって、生徒の優しさや友達に対する思いを気付けなかったことに、気落ちしている。
「今度からちゃんと言うんだぞ先生に。抜け出させてやるからな」
「芝先、本当にクビになりますよ」
「そんなの怖くて教師なんてやれないぞ」
教師に怖いも怖くないもないと思うけど、とキョウは思った。
芝先はデスクに置いてたコーヒーカップを持ち、一口飲む。そして腕時計に目を向けた。
「お、もうチャイム鳴るな。各務、行っていいぞ」
「失礼します」
キョウは椅子から立ち上がり、芝先に背を向けて歩きだす。
「各務、抜け出したくなったらいつでも言えよ!」
背後からまたも芝先が、問題発言をズケズケと大っぴらに言うあたり、しかも職員室で、いつかクビなるかもしれないとキョウは思わざるおえなかった。
「考えときますよ」
背を向けたまま片手を上げる。
他の先生方に怒られている芝先を背にし、職員室から出る。
と同時に、ビリリリーとチャイムが煩いぐらいの音量で鳴った。一見、初めて来た人なら避難訓練かなにかだと思うだろう、この音を聞けば。
このチャイム、校長先生がアメリカのハイスクール時代によく聞いたらしく、それが名残惜しかったので川凪高校のチャイムを一存で決めたらしい。
日本全土の何処の学校を探しても、同じチャイムを使ってるとこなんてまず無いだろう。
なんでも、この音を聞くと慌てて教室に入る効果があるとかないとか。
「芝先、そんなこと大っぴらに言うと、また問題になりますよ」
どうしてか、生徒であるキョウが向こう見ずな芝先を心配しないといけなかった。良い先生だから辞めてほしくないと、キョウも思うからこそ出た言葉だ。
そんな生徒の思いを余所に、いきなり神妙な面持ちに芝先がなる。
「その、先生な、各務のことちょっと誤解してたらしい」
「そうですか」
「そうなんだよ。冷たい奴だと思ってたけど、各務は違ったんだよな。そんなこと気付けないなんて先生、失格だな」
芝先は自嘲気味に笑った。
昨日、キョウが晴司の葬儀に行くため学校を黙って抜け出したことを知って、芝先はこんなことを言っているのだ。
生徒を誰よりも理解しようとする芝先にとって、生徒の優しさや友達に対する思いを気付けなかったことに、気落ちしている。
「今度からちゃんと言うんだぞ先生に。抜け出させてやるからな」
「芝先、本当にクビになりますよ」
「そんなの怖くて教師なんてやれないぞ」
教師に怖いも怖くないもないと思うけど、とキョウは思った。
芝先はデスクに置いてたコーヒーカップを持ち、一口飲む。そして腕時計に目を向けた。
「お、もうチャイム鳴るな。各務、行っていいぞ」
「失礼します」
キョウは椅子から立ち上がり、芝先に背を向けて歩きだす。
「各務、抜け出したくなったらいつでも言えよ!」
背後からまたも芝先が、問題発言をズケズケと大っぴらに言うあたり、しかも職員室で、いつかクビなるかもしれないとキョウは思わざるおえなかった。
「考えときますよ」
背を向けたまま片手を上げる。
他の先生方に怒られている芝先を背にし、職員室から出る。
と同時に、ビリリリーとチャイムが煩いぐらいの音量で鳴った。一見、初めて来た人なら避難訓練かなにかだと思うだろう、この音を聞けば。
このチャイム、校長先生がアメリカのハイスクール時代によく聞いたらしく、それが名残惜しかったので川凪高校のチャイムを一存で決めたらしい。
日本全土の何処の学校を探しても、同じチャイムを使ってるとこなんてまず無いだろう。
なんでも、この音を聞くと慌てて教室に入る効果があるとかないとか。