カセットテープ
 効果はともかく、実際に遅刻が減ったらしいと先生達が話していた。
 職員室前から教室に向かおうとすると、キョウの横を走って通り過ぎる生徒や、周りを見れば同じように走っている生徒達の姿が目につく。
「このチャイム、本当に効果あるんだな」
 周りの生徒を眺めながら妙に納得したように呟く。それでもキョウはのんびり教室に歩いて行き、急ごうとしなかった。
 遅れること五分。
 キョウは後ろのドアから教室に入っていく。
「またか、各務。」
 待ってましたと言わんばかりに目の前に日本史の先生が、入った先で立っていた。片方の手を腰に当て、もう片方の手には出席簿を持っている。
「おまえはどうしていつもいつもこの時間帯に遅れてくるんだ」
 禿げてきている頭から汗が吹き出すのを気にせず鼻息を荒くして、言葉をまくしたてた。
 この日本史の高田先生、通称ハゲタカ。
 男子生徒からは笑いの対象とされたり、女子生徒からは疎まれる対象とされたりと、学校では散々な目にあっている。
 更に、家庭内でもうまくいっていないらしいと、ホームルームの時間に芝先が世間話でもするおばちゃんのようにぺちゃくちゃ喋り、瞬く間に生徒達にそのことが広まってしまったのだ。
 ポケットから取り出したハンカチで頭の汗を吹き、何処かしてやったりの表情でハゲタカ先生がキョウを見る。
「各務、今日はどういう理由で遅刻したんだ? 教えてほしいな、先生に」
 生徒をいびるような高圧的な態度に教室の女子達から冷ややかな視線がハゲタカ先生に浴びせられる。
 この様子じゃかなりストレスやらうっぷんが蓄まってるようだ。生徒で憂さ晴らしをしようとしているのが人目で分かる。
 キョウは疲れたように溜め息を吐いた。
 その態度が気に入らないらしく、こことぞばかりにハゲタカが言葉を並べる。
「なんだあその溜め息は、先生にそんなことするのか」
 その一連のことを見ていた英里が、我慢ならない表情で立ち上がろうとするが、遮るようにして誰かがハゲタカ先生に言った。
「先生さあ、そんなことして楽しいんすか?」
 茶髪の男子が席から立ち上がり、ハゲタカ先生の許まで歩いていく。
「楢崎(ならざき)、お前まで私に何か用があるのか」
 ハゲタカ先生は問題児を見るような目付きで、近くまで来た茶髪の男子生徒――楢崎を見た。

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