カセットテープ
 それを見たキョウは、うーん、と唸った。彼としてはあまり満足のいく出来ではないらしい。
 キョウとは対照的に音実は、感激した表情で的に刺さっている矢を見つめていた。目は大きく見開かれている。
「……当たった」
 音実がポツリと呟いた。
「初めて当たった……やったあー!」
 音実は急にピョンピョンと両足で跳び、嬉々した表情で仲の良い同級生の女の子の許に抱きついた。そして、すぐにキョウの前まで来て破顔した。
「ありがとうございます、先輩。おかげで初めて的に当たりました」
「そ、そうか」
「はい! あっもう時間なのでお先に失礼します」
 弓道場にある時計を見て音実は、慌てて女子更衣室で着替えて帰っていった。
「当たってあんなにも喜ぶもんなんだな」
 音実が帰っていった方を見てキョウは言った。当たり前のように射る度に、的に命中する彼にとっては、音実の喜びようは以外だった。
「部長って教えるのも上手なんですね。顧問の先生より上手いんじゃないですか?」
 隣の射手位置にいる後輩男子が聞いてきた。
「いや、先生の方が教えるのは上手だと思う。あれでも全国大会に出てたらしい」
「へえー、そんなんですか」
 後輩男子が感心するような口調で言った。
「でも、先生っていつ弓道場に来るんですか? いつも教えてるのは部長と雪瀬先輩ですし、それに一度もここに来るの見たことないですよ」
「確かにな、滅多に来ないし俺も一度しかここでは見たことがない。まあ、その内来るんじゃないか」
 キョウは自分がこんなことを言っておきながら、多分来ないだろうと思っていた。先生がかなりのいい加減な性格だと理解しているからだ。県大会などでも代わりの先生をたてて来なかったからこそこう思えたのだった。
 キョウが初めて弓道場で見たのは、全国大会の日に弓道場集合だったのでその時に見て、それ以来ここでは見ていない。
 つまり、練習には顔を出さない。そして全国大会の日にしか顔を出さない。
 これがキョウの先生に対する考えだった。
「そうですかねえ」
 後輩男子は納得できていない表情で言った。うーん、と唸っている。
 キョウが納得させるために声を掛けようとした、次の瞬間、
“バッカモーーン!”
 と、雷でも落ちたかのような怒声が校内のあちこちのスピーカーから突然流れてきた。
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