空しか、見えない
 少し鍵盤を押さえながら、首を捻っているから調律が気になるのかもしれない。
 柔らかく弾き始めたのは、ジャズっぽい曲だった。タイトルまではわからないけれど、なんと自由に弾くのだろう。中学生の頃は、誰にも真似できないほどタッチが強かった。早弾きもお手のものだった。けれどこんな風に、ゆっくりと楽しそうに純一はピアノを弾くようになった。自分の音と一緒になって、彼はピアノと会話をしているように見えた。
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