空しか、見えない
 のぞむは、ニューヨークの報告を終えて急に重荷のひとつでも解放した気になったのか、腹を抱えて笑っていた。長い手足がばらばらに動き、佐千子には、壊れたマリオネットのようにも映ったのだ。

「一応、消灯だけど、ビールあと何本いる?」

 窓際にずらりと並んだビール瓶を引き上げに、ごじべえのおじさんが上ってきた。みんな、盛大に飲んで、食らった。普段からそこまで豪快に飲み食いしているとは思えないのだが、何をしていてもあの頃に戻ってしまうのだ。いつだって、どうでもいいことで競い合っていたあの頃だ。
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