空しか、見えない
 マリカの住むアパルトマンの窓からは、通りを隔てて向かい合う部屋の様子や、パン屋の店先が見える。
 焼き上がったばかりのパンが紙袋から取り出され、ダイニングテーブルの上で切り分けられていく。寝起きの子どもたちが席につく。髪の毛をシニヨンにまとめたお母さんが、カフェオレを注ぎ、テーブルにタラモやジャムを並べながら、ジャムに指を伸ばした子どもに指を立てている。
 毎日のように垣間見えるそんなパリらしい暮らしに憧れを抱きながら、マリカのフランスでの生活には、本当は誰にも話していない暗がりがある。
 別に、どこにでもありそうな話なのだ。
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