空しか、見えない
「私が言いたかったのは、由乃さんの気持ちもわかるってことです。お一人ひとりの話を訊くまでは、私みたいなこんな年になっても、皆さんの仲間を妬いていましたから。おしゃもじハッチなんて変な名前で、すごく嫌だった」

 純一は、まゆみの瞳の中に映っている、自分の瞳こそが揺れているのを見た。

「でも、一人ひとりの紹介を受けたら、急に自分にも友達ができたみたいな気持ちになったんです。もらっていって下さい、この写真。私が預かっていたために、義朝の棺には入れられなかった写真なんです」

 純一は、みんなの視線が自分の横顔を射るように感じた。
 その写真をまゆみの手から受け取ると、扉を開けた。
 店のドアベルの音が、いつもより、大きく耳に響いて感じられる。
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