フィレンツェの恋人~L'amore vero~
耳に、ハルの声がまとわりつく。


「Questa e la dichiarazione s di guerra(これは、宣戦布告だよ)」


ガラスの中のハルが、ネックレスを見つめていた。


その目を見て、私は後ずさりしそうになった。


背中がぞくぞくした。


また、あの野蛮な目をハルはしている。


「クエスタ……グエーラ……? 何て言ったの?」


ハル、と私が彼の名を声にした瞬間、ハルは白昼夢から覚めたようにハッとして、


「何でもない」


と急に優しい表情に戻った。


時々、ハルを恐ろしいと思う瞬間がある。


フルムーンの夜に怪物と化してしまう狼男かもしれない、そう思う瞬間がある。


さっきのような、野蛮な目をするハルを。


「祖母は、ぼくにとってとても偉大な存だった。いつも、ぼくだけの味方でいてくれたし、守ってくれた。だから、きっと、東子さんを守ってくれる」


そう言って、ハルはネックレスに触れた。


「悪い虫避けさ」


「ネックレス?」


「そう。男運が悪い東子さんに、二度と悪い虫がつかないように」


と、ハルは可笑しそうにプッと吹き出した。


「失礼ね。慎二はたまたまよ」


「そうかなあ」


「そうよ。それに、今夜は人妻なのよ、私。夫が一緒にいるの。虫が寄ってくるもんですか」


ムキになる私に、何ムキになっているの、とハルは笑いながらちゃちゃを入れて来る。


「大人の女性は、いつも冷静で毅然としていないとね。ムキになるなんて、子供みたいだね、東子さん」


「ムキになんか……私はいつだって冷静よ」


「はいはい」


ハルと話していると、調子が狂う。


ペースが乱れる。


ハルがここへ来てから、何もかも狂いっぱなしだわ。


「まあ、いいさ。とにかく、だ」


とハルは呟くように言い、そのまま後ろのソファーにどっさりと座った。
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