フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「高くつくわよ」


「特別に割引してよ。知ってる? 柏木ライターの今日の昼飯、カップラーメン」


「分割でいいわ」


「きっついなあ」


私たちは同時に吹き出して笑い、コンビニを出て、ホテルへ向かった。


柏木桔平。


25歳。


極普通の家庭に生まれ育ち、3流大学を出て、フリーライターに。


柏木東子。


同じく、25歳。


実家は歯科医院。


裕福な家庭で育ち、大学を出て、今は大手広告代理店に勤務。


ふたりの出逢いは、同大学。


普通に恋に落ち、結婚。


それが今夜限りの「設定」だ。










プリンスホテルは、この街でも3本の指に入る、建物も値段も全てが超の付く一流の高級ホテルだ。


エレベーターで一気に30階まで上る。


最上階に待ち合わせの巨大パノラマをイメージして造られたという、天空構造のレストランがある。


エレベーターのドアが開くと、仄暗い照明の空間が私たちを迎えてくれた。


【Le Jardin Secret】


「ル、ジャルダン、セクレ。意味は、秘密の園」


と、桔平が小声で言った。


「すごい、桔平。フランス語できるの? 知らなかった」


まあ、少々、と桔平がくすぐったそうにはにかんだ。


「ここに来たの、初めてじゃないから。以前、政界の人とね。その時、この意味を教えてもらったんだよ」


と、筆記体で書かれた店名を指さす。


「そうなの」


なんだか、桔平を遠くに感じた。

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