フィレンツェの恋人~L'amore vero~
お話にならないわ。


腹が悪くて椅子を立とうとした私の手を、彼がとっさに掴む。


「待って」


そして、手を離して言った。


「待って下さい」


「まだ何か?」


「その、ネックレス」


と鷹司煌が私の首元を指さした。


「とても良くお似合いだ。どこのブランドです?」


「ああ、これは」


ハルが、と言おうとしてやめた。


ハルの事を話したって、この人にはどうでもいい事だろうから。


「これは……そうですね。おそらくブランド物だとは思うのですが、分かりません」


答えながら、私は椅子に座り直した。


「分からない?」


不思議そうに彼が首を傾げる。


「ご自分で購入した物ではないのですか?」


「違います」


「では、プレゼントですか?」


「いいえ」


それも違います、と私は首を振って、そっとネックレスに触れた。


「今夜、ディナーに行くと言ったら貸してくれました」


「ご友人ですか」


「いいえ。不思議な……同居人です」


悪い虫避けに、って、ハルが。


ふと、夕方のハルとのやり取りを思い出して、笑ってしまった。


「同居人、ですか?」


鷹司煌が、興味深そうに見つめて来る。


「ええ。とても変な」


ハルは、本当に不思議で本当に変な子だ。


でも、なぜだろう。


ハルが来てからまだ数日なのに。


ハルとの奇妙な生活が、少し、楽しい。


そして、不思議な事にハルの事を話すと、驚くほど口がスムーズに動くのだ。


「聞いて下さる? 鷹司さん」


「ああ、煌で構いません。僕も東子さんと呼ばせていただいてもかまいませんか?」


「ええ。では、煌さん」


これ、と私はもう一度3つ星に触れた。
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