フィレンツェの恋人~L'amore vero~
12月31日。


大晦日。


朝から、快晴だった。


冬という季節を素通りして、秋から一気に春にジャンプしたようなパステル色の優しい空が広がった。


ハル、という名前にとても良く似合う、空色。


「こんな屈辱は初めてだ!」


ハルの声が地響きのように響く。


「あと1回! もう一度やらせて。ねえ、東子さん!」


ハルという不思議な子が現れてから、今日でちょうど1週間になる。


「無視しないで、東子さん!」


まるでドラえもんのスネオのような寝癖がついた前髪を弾ませながら、ハルが私の腕を掴む。


「東子さん」


ギラギラと、寝起きの目を血走らせながら。


「諦めなさい」


7日間という時間が長いのか短いのか、それは分からないけれど。


この期間に、少しだけハルを知った気がする。


寝起きのハルはまるで子供だ。


やかましくて、騒がしくて、負けず嫌いだ。


特に、諦めが極めて悪い。


「このまま引き下がれるもんか。ぼくは諦めないよ」


「男なら、潔く諦めなさい。人にはね」


向き不向きというものがあるのよ、と言いながらハルの手をほどいた。


「ハルは頭がいいとは思うわ。計算とかすごいと思う。でも、こういう事は向いてないのよ」


「ムキ、フムキ」


ハルがむうっとして頬を膨らませる。


「そう。向き、不向き」


どいて、邪魔よ、と私はのっぺりと立ち尽くすハルを横に追いやった。


「ムキ、フムキ! ムキ、フムキ!」


ふうっ、ふうっ、と鼻息を荒くして、ハルが私を睨みながら見下ろして来る。


暑苦しいったらない。

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