フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「やりたい! やりたい、やりたい!」


しばらく知らんぷりを通していたけれど、その暑苦しさに、


「邪魔よ」


と勝手に言葉が飛び出した。


次の瞬間、


「東子さんが何を言おうと、無駄だよ」


そう言って、ハルは雄叫びのように言った。


「これはぼくに与えられた究極の試練なんだ!」


「……はあ?」


何て大げさなのか。


呆れて言葉が見つからない。


「とにかく、ぼくはやるんだ!」


「えっ」


ハルはツキノワグマのように両手を振り上げて、私に覆いかぶさって来た。


「あっ、こら」


そして、ぬうっと手を伸ばした。


ハルの手が、それをしっかりと掴む。


「ハル! これ以上、食べ物を粗末にしないで!」


「心外だなあ!」


キッチンには、オリーブオイルのこうばしい香りが充満している。


そして、キッチンのシンクの上のお皿には、アメーバ。


黄色と白が化け物のようにどろどろになった、不気味な物体が山になっている。


ハルの失敗作たちだ。


目玉焼き。


「粗末にしないよ。ちゃんと食べるさ。でもね、東子さん。成功の陰には並々ならぬ努力と失敗が隠れているものなんだ。祖母が言っていた」


とハルは卵を手に、爽やかに笑った。


スネオのような前髪を揺らしながら。


「今度はきっと、成功する。さっき、コツを掴んだからね」


事の始まりはもう30分も前にさかのぼる。
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