フィレンツェの恋人~L'amore vero~
鮮やかな色の黄身が、ひとつ、ふたつ。


ひとつの卵から、ふたつの黄身が飛び出した。


「珍しい。双子だわ」


私は小さく笑った。


「アルテミスが、ふたつ」


「ねっ! 言っただろう!」


とハルが得意げに笑った。


「ぼくは試練をクリアしたんだ。奇跡を起こした」


そして、フライパンにふたをして、蒸し焼きにしながらハルは言った。


「ぼくは、嘘をつかない」


「またそれ?」


その時、インターフォンが鳴った。


「おはようございます。東子様」


モニターに映り込んでいたのは、サエキジロウだった。


「サエキさん、どうなさったんですか」


「はい。先日預かりました眼鏡が修理から上がりましたので、お持ち致しました」


サエキジロウは今日も朝から黒い正装に身を包み、腰が低い。


聞くと、朝食がまだだと言う。


せっかくなので一緒に、と誘うと彼は遠慮がちに首を振った。


「いえ、わたくしは……」


すると、ハルがどしどし歩いて来て、サエキジロウを無理やり部屋に上がらせた。



「ああ、しかし……」


「いいから、ぼくの言う事を聞くんだ、サエキ! いいね!」


もう最後は、ハルが力ずくで引きずり込んだと言った方がいいのかもしれない。


「はい……では、お言葉に甘えさせていただきます。東子様、お邪魔致します」


「どうぞどうぞ」


サエキジロウは言葉使いももちろん、ひとつひとつの行動はもっと丁寧だった。


脱いだ靴はきっちり揃えて、深々と一礼して、足音ひとつ立てずにリビングへ入った。


「失礼致します」


テーブルの前に座る時も一礼して、キチと正座をして、黒いハットを膝元に置いた。
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