フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「サエキさん、すみません。こんな物しかお出しできなくて」


「とんでもございません。わたくしこそ厚かましくお邪魔してしまい、大変申し訳ございません」


「いいえ、そんな。あ、膝を崩して下さい」


私がテーブルにトーストとバター、サラダとコーヒーを並べていると、


「見てくれ! サエキ!」


ハルがドタドタと足音を鳴らしてキッチンから“アメーバ”を持って来た。


「ほほ、それは?」


興味深そうに、サエキジロウが真っ白な眉毛をくいっと持ち上げる。


私は思わず額を押えた。


「目玉焼きさ!」


アメーバをドンとテーブルに置いて、


「これは、ぼくが食べる」


とハルはキッチンへ戻って行った。


「目玉焼き……でございますか」


アメーバをじっと見つめてきょとんとするサエキジロウに、私は「はあ」と肩をすくめた。


「あの、東子様。まさかとは思うのですが……」


ひそひそと小声で言いながら、サエキジロウが私に不審の目を向けて来る。


「こちらは、東子様がお作りに――」


「違います!」


「ぼくが作ったんだ!」


背後からぬうっと湧くように現れたハルが、もう一皿、どしっとテーブルに置いた。


「こっちは失敗作。これが成功作だよ」


双子の目玉焼きを食い入るように見つめて、サエキジロウが最高の笑顔になった。


「芸術的でございます」


「そうだろう! ぼくもそう思う。さすが、サエキだね」


ハルも満足そうに笑って、サエキジロウに成功作のお皿を滑らせた。


「サエキはこれを食べてくれ。失敗作はぼくが責任を持って食べる。東子さんとの約束だからね」


サエキジロウは返事もせず、ただひたすら幸せそうに、双子の目玉焼きを見つめてばかりいた。


「さあ、食べよう!」


いただきます、とハルがトーストを頬張る。


私はコーヒーをすすった。


「どうした、サエキ。食欲がないのか?」


ハルが聞くと、サエキジロウは「いいえ」と首を振った。

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