フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「わたくしは、胸がいっぱいでございます」


「何を言っているんだよ。さあ、食べて。東子さんのご飯は最高だよ。ロベルトといい勝負なんだ」


またロベルト? 、と私は笑った。


「サラダとコーヒー、ベーコンを焼いただけじゃないの。パンだってトーストしただけ。勝負にもならないんじゃないの?」


「いただきます」


サエキジロウがすっとフォークを持って、なぜか、アメーバに手を伸ばした。


「サエキ。こっちじゃない。成功作を」


「良いのです。わたくしは、こちらの目玉焼きが食べたくて仕方ないのです」


取り皿にアメーバを1枚乗せ、岩塩を一振りしたどろどろのアメーバをサエキジロウが頬張る。


そして、見ているこっちが幸せになるような、くしゃくしゃの笑顔になった。


「美味しゅうございます。このような美味しい目玉焼きは初めてでございます」


「そ……そうか?」


ハルが心配そうに聞くと、サエキジロウは「はい」と幸せそうにうなずいた。


「これは、ロベルトも驚きでございます」


美味しい、美味しい、とサエキジロウはアメーバを食べ続けた。


「そうか! サエキ、たくさん食べてくれ!」


「はい!」


ふたりは見れば見るほど、おかしなふたりだった。


可笑しくて、食事もそこそこに、私はずっとふたりを見ては笑ってばかりいた。


「そうだ、サエキ。ニクマンを知っているかい?」


「はい。存じております。中華まんでございますね」


何を言っているんだよ、とハルが眉間にしわを寄せる。


「ニクマンは、白いパンだよ」


「いいえ、中華まんでございます」


「チューカマン? 違う違う。ぼくが言っているのは、ニクマンだよ」


「はい。ですから、肉まんは中華まんでございます」


ハルが明らかにむっとしている。


「ニクマンはパンだろう!」


「中華まんでございます!」


しまった。


私は話題を変えようと、割り込んだ。


「ハル、サエキさん。ところで、そのロベルトって、一体、誰の事なの?」


ふたりは同時に私を見て、同時に言った。


「料理が趣味の小さなおじさんだよ」


「料理がご趣味の小さな中年男性でございます」


そして、同時にこう言った。

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