フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「それ以上は言いたくないんだ」


「それ以上は申し上げられません」


半信半疑だったけれど。


ハルの言っていた事は、おそらく本当だと思った。


「じゃあ、それ以上は聞きません」


だって、ハルは嘘を言わないものね。


サエキジロウ。


この人は、おそらく、ハルの親友だ。












「長居をしてしまいました。申し訳ございません」


良いお年をお迎えください、とサエキジロウが帰ったのは夕方近くだった。


古くから交際のある友人たちと年越し蕎麦を食べたあと、予約している想い出の老舗旅館で新年を迎えるのだそうだ。


それから、わたしとハルはスーパーへ行って卵を買い、近場のお蕎麦屋さんで年越し蕎麦を食べて、マンションへ戻った。


19時から紅白歌合戦を観ながらゆっくりと過ごし、少し、眠った。


23時前に起きて出掛ける準備をして、23時にはマンションを出た。


ハルが「ハツモウデ」に行きたいと言ってきかなかったからだ。


どうせどこの神社も参拝客で混雑しているだけだから明日にしよう、と私は言ったのに。


どうしても今夜、ときかないハルに根負けしてしまった。


私は白いポンチョ型のウールコートを羽織り、ブーツといういたって普通の格好で。


ハルは黒いダウンジャケットにスニーカー。


そして、修理から戻ってきたばかりの黒縁眼鏡をかけて。


「もったいない」


神社へ向かう人の流れに乗って歩きながら、私はハルを見つめながら言った。


「ハルは眼鏡をしない方がいいと思うわ」


カツ、カツ、とブーツのピンヒールが冷たく乾いたアスファルトを叩く。


「似合わないかな」


「いいえ、似合うわ。とっても。でも、ハルは眼鏡をしない方がもっと素敵だと思う」


目はエキゾチックでミステリアスだし、眉毛だって凛々しいし、鼻筋もきれい。


せっかくのシャープなフェイスラインなのに、眼鏡をすると隠しているみたいで勿体無い。


「それに、だて眼鏡なんでしょう?」


朝から快晴で春と勘違いするほど暖かい1日だったのに。


さすがに日付が変わるこの時間帯になると寒くて、手がかじかむ。


雪でも降って来そうな冷たさだ。


「でも、ぼくは外さないよ。こういう混雑している場所では特にね」
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