フィレンツェの恋人~L'amore vero~
振り向くと、そこに居たのは奏汰くんを抱きかかえる桔平と、繭だった。


「とうこおねえちゃんだ!」


カエルのフード付のもこもこフリースにマフラーをぐるぐる巻きにした奏汰くんが、桔平の腕の中で、私にぺこんと頭を下げる。


「あけまして、おでめとうございまあす」


「こら、まだ早いよ、奏汰。それはもう少し後でな」


と桔平が幸せそうに笑えば、


「しかも、おでめとうだって。おめでとう、だよ。奏汰」


繭はもっと幸せそうに笑った。


「東子さん」


誰? 、とハルが小突いてきた。


「紹介するわね。こちら、柏木桔平と奥さんの繭。この子は奏汰くん。ふたりは私の親友なの」


ふうん、とハルは頷き、ふたりに会釈をした。


そっけなく。


「桔平、繭。紹介するわ、この子」


私がハルの腕を軽く弾いた時、先に桔平が言った。


「ハルくん、だろ」


話しは繭から聞いたよ、と桔平は言い、よろしくとハルに手を伸べた。


でも、ハルはそっけない笑みを一瞬だけ返しただけで、桔平の手を握り返す事はなかった。


くい、と眼鏡のズレを直して桔平をじっと見つめたあと、


「失礼」


それだけ言って、境内へつながる長蛇の列に向かって、すたすた歩いて行った。


「ちょっと、ハル」


桔平は口には出さなかったけれど、明らかにむっとしている。


「ごめんね。桔平、繭。あの子、人見知りしているのよ……たぶん」


「いいのよ、わたしたちは。気にしてないわ」


と言いながらも、繭だって明らかに唖然としている。


「人見知り? 違う気がするなあ」


長蛇の列の最後尾についたハルの横顔を見つめながら、桔平が仏頂面で言った。


「だって、俺の事睨んでた」


「気を悪くさせたみたいでごめんなさい。でも、悪い子ではないのよ、本当に。いつもは本当に穏やかで、にこにこしているのよ」


「ふーん。まあ、いいけどね」


少しずつ、桔平に笑顔が戻った。


「本当に、変な子ねえ」


ぼそっと繭が呟く。


「東子が言ってた通りね。変な子。それに、なんて目をしているのかしら……あの子、日本人なの?」


「明らかに日本人だろ。髪の毛、真っっっ黒だったし」


な、と桔平が笑いながら、話を振ってきた。


「そうだと思う。きっと、日本人。でも、分からないのよ」


どういう事なのか、とふたりが聞いてきた。


「時々、珍しい言葉を使うの。日本語でも、中国語でも、英語でもなくて。フランス語……のような感じの言葉」


けれど、フランス語でもなくて。


「それに、時々、人間ではない気がするの」


人間の姿をした宇宙人じゃないか、フルムーンの夜に化け物に豹変する狼男かもしれない、って。


ふたりは真面目な顔で私を見つめていた。
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