フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「何を聞いても、教えてくれなくて。だけど、ハルは絶対に嘘をつかないの」


ゴオーン、と除夜の鐘が震えながら冬の夜空に吸い込まれて行った。


「まあ、東子がそこまで言うくらいだから、悪いやつではないだろうけど」


何かあったらいつでも言えよ、と桔平が微笑む。


繭も「そうよ」と頷いた。


なぜか、私はほっとしていた。


おそらく、私はハルを否定されたくなかったのだ。


あの日、私を救ってくれたハルを。


「どうした、奏汰」


見ると、桔平の腕の中で奏汰くんが小さなほっぺたを真っ赤にして、ぷるぷる震えていた。


「……う……ん」


ぷるぷる。


「……うんち。うんちでる」


うんうん、ふんばっている。


「わ、ばか! ここでするな」


「……うんちでちゃうっ」


「出ちゃうって……言われても」


こんな時、おろおろする男と、すばやく行動に移る女。


「かして!」


おろおろするばかりの桔平から、うんうんふんばる奏汰くんを略奪するように取り上げて、


「トイレ行って来る」


繭は一目散に走って行った。


「だめね、パパ」


私が笑うと、桔平は困った顔をして頭を掻いた。


「母親って、凄いよな。普段はぼけっとしてるのにさ。こういう時は、繭の方がしっかりしてるんだ」


「そうよ。繭に感謝しなさい」


「はい、そうします」


笑い合っていると、突然なにかを思い出したように、桔平が「あっ」と声を出した。


「そういえば、会えたか? 行っただろ、東子の勤め先に」
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