フィレンツェの恋人~L'amore vero~
冬の、とっても良く晴れた日だった。


初めてホットケーキを食べて、ママが用意してくれたよそ行きの綺麗な洋服に着替えて、隣の隣のもうひとつ隣の町へ行った。


ママが連れて行ってくれたのは、教会だった。


――ママね、これからちょっと行かなければならない所があるの。だから、ここで待っていてくれる?


ママはとっても綺麗な人だった。


お母さんも綺麗だけれど、くらべものにならない位綺麗だったママ。


真紅の薔薇のように美しい人。


――実花子はいい子だから、大丈夫ね


聖母マリアのように長い長い髪の毛で、怖いくらい美しい目をしていた。


――うん。まってる。ママ、すぐにかえってくる?


ママは「うん」とも「いいえ」とも言わなかった。


曖昧に微笑んで、私の髪の毛をすくように撫でて抱きしめてくれた。


長く長く、とても長く。


ママからはホットケーキの香りがした。


朝食べさせてくれたホットケーキのこうばしい香りと、メイプルシロップの甘い香り。


――実花子


私の名前を囁いたママの目は、うるうるしていた。


――いい子。実花子はとってもいい子ね


そう言って、ママは私の体にぶら下がっていたクマさんのポシェットにお手紙のような物を入れて、こう言った。


――誰かに何かを聞かれたら、このお手紙を渡すのよ。できるよね


――うん


――いい子。いい子は幸せになれるのよ。実花子


そして、ママは私を椅子に座らせて、大きなバッグの中から出したテディベアを抱かせた。


プレゼントよ、そう言って。


――わああー、かわいいー!


初めてのプレゼントが嬉しくて、私は無邪気にはしゃいだ。


――実花子。ママが来るまでお外に出ないでね


お外に出るとこわーい魔女が来て森へ連れて行こうとするから、とママは言った。


――えっ……まじょ?


怖くて、私はテディベアを抱きしめた。
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