フィレンツェの恋人~L'amore vero~
開いたドアの隙間から冬の陽射しが一気に流れ込んできた。


きらり。


何かが光って、それが眩しくて、私はテディベア越しに目を細めた。


――実花子……


ママの涙だった。


ママは薔薇のように綺麗な顔をくしゃくしゃにして、泣いていた。


――……ママ?


――ごめんね……実花子っ……


ギギギイー、と音を立てながらドアが閉まっていく。


バッタアーン、と大きな音が異様に不気味だった。


ドアが閉まる直前に、ママはきっと、私を見た。


とっても優しくて、とても残酷な美しい目だった。


――ママー!


静かな静かな、ボロの教会に、私の声が虚しく響いていた。


私はテディベアを抱きしめて、泣き続けた。


ずっと。


ずうーっと。


そして、泣き疲れて眠ってしまった。


起きた時にはママが迎えに来てくれて、私を抱きしめてくれる。


実花子はいい子ね、と抱きしめてくれる。


そう信じて、目を閉じた。












「東子さん!」


ハッとした時、私はハルを思いっきり突き飛ばしていた。


「違うわ! 東子じゃない! 私はっ……」


純白の絨毯に尻餅をついたハルがずれた眼鏡のレンズ越しで、目をぎょっとさせて私を見上げる。


「私は実花子よ!」


呼吸困難になってしまいそうだ。


体の震えが止まらない。


「何を……言っているんだよ、東子さん」


「違うわっ!」


私はハルを睨み付けた。


そうよ、もとはと言えば、この子のせい。


ハルのせいだ。


ハルがこんなところに、私を連れて来るから。


消し去ったはずの過去を思い出してしまった。


私は生まれてすぐに施設に預けられた。


だから、本当の親の顔なんて分からない。


実花子という名前も施設の先生がつけてくれたものだ。


そうだと自分に言い聞かせて、生きて来たのに。


「東子さん」


この子が、こんなところに私を連れてきたりするから。


「東子じゃないと言っているじゃないの!」


私はハルを睨みながら、ギリギリ奥歯を噛んだ。


頭に血がのぼる。


頭が狂いそうだ。


「私はっ……私は実花子よ!」
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