フィレンツェの恋人~L'amore vero~
25年の人生で初めて聞いた言葉だった。


誰かに「必要だ」と言われたのは初めてだった。


しかも、こんな謎だらけの年下の男から。


長年付き合っていた慎二でさえ、言ってはくれなかった言葉を、ハルはあっさりと言った。


あまりにもストレートで、あまりにも無防備に。


だから、ますます頭に血がのぼった。


「帰ろう。東子さん」


私は返事をしなかった。


得体の知れない業火のような感情に顔が引きつる。


ハルはにっこり微笑み、私の肩を抱いて歩き出した。


必要、ですって?


私の事なんて何も知らないくせに。


何も……知らないくせに。


信じられる、とか、必要だ、とか。


簡単に言わないで。


私は、酷い女なのに。


「あなた、何も分かっていないのよ」


私が本当はどんな女なのか。


教会を出た瞬間、


「ハルに何が分かるの!」


ハルの腕を振り切り、


「私はっ……犯罪者よ! 人の命を奪ったもの!」


汚い声で叫んだ。


今度は何を言い出すのか、とハルが私を見つめる。


「殺したのよ……罪の無い小さな命を消したわ」


「……え?」


ハルの目頭がぴくりと動いた。


「殺したのよ。慎二との間に授かった赤ちゃん。殺したわ」


私はコートの上からそっとお腹を押さえた。


溢れる涙を堪えることもせず、ぼろぼろこぼしながら。


「分かってすぐに、中絶をしたのよ。慎二には何も言わずに。勝手に。消した」


ハルは目を丸くしたまま、茫然と立ち尽くし、私を見つめていた。


私はふふっと鼻で笑った。

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