フィレンツェの恋人~L'amore vero~
上海蟹と干貝柱のあんかけ炒飯。


そして、デザートのマンゴーソースがかかった杏仁豆腐。


「あの……煌さん」


正直、引いてしまった。


「せっかくなのですが、こんなに食べれません。それに、お財布も携帯電話も全部職場に」


この身ひとつで来てしまった。


お品書きを見つめて頬を引きつらせる私に、煌さんは爽やかに微笑む。


「残していただいてかまいません」


「でも、このお値段」


【スペシャルランチ】

御一人様 8,600円(税込)
  〈二名様より承ります〉


目が回りそうなほど、丸テーブルをびっしりと埋め尽くす高級中華。


「かまいません。僕が勝手にした事ですから」


そんな事を言われても……。


遠慮をしたわけではないけれど、どうしても箸に手が伸びなかった。


「中華は好みませんか?」


ぱく、と前菜を口に運んで、煌さんが見つめてくる。


「いいえ。そういう訳ではないですけれど」


「フレンチよりはいいかと思ったのですが」


「……え?」


「いえ、先日のディナーの時、フレンチを好まれていないように見えたので」


この人、やっぱり苦手だわ。


本当に鋭い人。


「中華、お嫌いでなければどうぞ食べて下さい。ここの中華は絶品ばかりです」


「じゃあ……いただきます」


前菜を食べた私の様子を伺うように煌さんが見つめてくる。


「どうです?」


「おいしい!」


「そうでしょう!」


並べられた料理はどれもこれも最上級だった。


一通り味を楽しんだ頃、煌さんが切り出した。


「柏木さんはお元気ですか」

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