フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「……いいえ、と言ったら嘘になりますから……おそらく、知りたいのだと思います」


叶うのなら、ハルを知りたい。


本当はどこから来たのか、どんな理由があって、あの日、あんなところにいたのか。


「でも、知りたいと望んではいけないのだと思います。知ってはいけないのだと。知ったらきっと、あの子……居なくなる気がするんです」


一生、私と一緒に生活をして欲しいなんて言うつもりはない。


でも、今居なくなられたら、私は困るのだと思う。


「居なくなられたら困るんですね」


そうなのだと思う。


だって、そうしたら私はまたひとりになってしまうもの。


私を必要としてくれる人が居なくなってしまうもの。


「良く分かりもしない子なのに、一緒にいると心地がいいの」


わたしは苦笑いした。


「煌さんはエスパーみたいですね。他人の心を読めるの?」


「まさか」


煌さんは可笑しそうに吹き出して、ジャケットを正した。


「ただ、東子さんに同じ空気を感じるんですよ」


「空気、ですか?」


「ええ。初めてお会いした時から、そう思っていました。この女性は悲しい過去を背負いながら生きているのではないか、と」


ギク、とした。


そして、もしかしたら、煌さんは本物のエスパーで私の過去も透視したのかもしれない、なんて。


「安心して下さい。聞いたりしませんから」


ほら。


いま私の考えている事を口にした。


聞かれるかもしれない、深く突っ込まれるかもしれない、と思っていたから。


「人は誰でも、聞かれたくない過去を隠して生きていますからね」


煌さんの言葉には苦笑いするしかなかった。


奇妙な沈黙が数分続いたあと、今度は私から切り出した。


「煌さんは、今でもその女性を想っていますか?」

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