フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「さあ……どうでしょうか。もう、分かりません。7年も前の事ですから、忘れてしまいました」


微笑んだ彼に、それ以上問う必要などなかった。


わざわざ聞かなくても、分かってしまったから。


顔にそう書いてある。


好きだ、と。


そんな気がした。


「そうですか」


だからそう言って、頷いた。


私はまだ何も知らなかった。


煌さんが過去を語ってくれたことで彼を少し分かったような気がしていたけれど。


まだひとつも分かってなどいなかったのだ。


彼の、胸が裂かれるような「過去」を。


そして、なぜ煌さんがここまで“真実の愛”にこだわるのか、も。


「とにかくです。東子さん」


「はい」


「失って気付いた後に残るのは想い出などではありませんよ。山のように積み重なる後悔だけです」


「……はあ」


「知りたいなら、知るべきです。知ってはいけないなどという決まりはありません」


「でも、知ったら――」


私の声を遮って、煌さんは強引に言った。


「いずれ、知らなければならない日が来ますよ。必ず。嫌でも知る日が来ます」


私は小さく唾を飲み込んで、そして、そっと息を殺した。


「いずれ、知る事になるでしょうね」


そう言った彼の顔からはもう完全に笑みが消え去っていた。


ただ、不気味さしか残っていなかった。


「どういう意味ですか?」


知らなければならない日が来る、とか、嫌でも知る日が来る、だとか。


どういう意味なのか、その時の私には知る由もなかった。


時刻を確認した煌さんが椅子を立った。


「そろそろ出ましょう。時間です。送りますよ」


「あの、煌さん、嫌でも知る日が来るって……」

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