フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「目立つからです。煌さんは」


「目立つ?」


と、彼はきょとんとした顔で、うつむく私の顔を覗き込んできた。


ル・マルが鼻先をくすぐる。


「私のような一般人とは明らかに違います。その……オーラ、というか」


こうしている今だってそうだ。


ランチから戻って来た社員たちが、車内の様子をしきりに気にしながら真横を通過して行く。


「お分かりですよね。さっき、煌さんが来た時、空気が一変したこと。煌さんは世界を相手にする最王手外資系企業の社長なんです。そんな方が私のような一般OLを連れ出したなんて……面白がられるに決まっています」


おそらく、今日からしばらくの間、社内は噂が絶えないだろう。


「ああ……失敗したな……おそらく、例のテレビ出演がまずかったのでしょう」


ふう、と煌さんが溜息をもらした。


「テレビ出演、ですか」


そう言われてみると、と思い出した。


煌さんが来た時、横に居た女子社員たちの会話。


「ええ。観ていませんか? NNB局で、2日に放送された番組です。それで、顔が知れたのでしょう」


「そうでしたか。すみません、私、観ていないので分かりません」


どんな内容だったのかを問うと、煌さんはうんざりだといわんばかりに表情を歪めた。


「今年から新しく始める事業の取材ですよ」


「どんな事業ですか?」


「聞きたいのですか?」


「だから、聞きました」


変な女性だな、ぽつりとつぶやいて煌さんは面倒臭そうに早口になった。


「今、そのサイトを立ち上げていて、最終段階です」


「サイト?」


つまらない事です、と煌さんは続けた。
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