フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「では、また伺わせていただきます」
と品良く微笑み、煌さんは車に乗り込んでドアを閉めようとする。
「……待って!」
閉まりかけたドアを力ずくで制御して、私は煌さんから携帯電話を奪い取り、大至急ナンバーを打ち込んだ。
そして、それを突っ返した。
「これでいいですか?」
「ええ」
ディスプレイを見つめて、煌さんが頷く。
「確かに」
「ですから、もうここへは来ないでください」
煌さんは携帯電話をぱたりとたたみ、スーツの内ポケットにしまった。
「約束しましょう」
ほっと畝を撫で下ろした次の瞬間、斜め背後で物音がした。
振り向く先に立っていたのは、華穂とその部下だった。
「……華穂?」
明らかに、彼女の様子がおかしい。
雨上がりのまだ濡れているアスファルトに白い携帯電話と財布、それから、数枚の書類が散乱していた。
「チーフ! 何してるんですか」
慌てて書類を拾い集める部下の横で、華穂は雷に打たれたように立ち尽くし、唇を震わせ、黒光りする車体を見つめている。
今にも、泣きそうな目で。
薄紅色の唇が微かに開く。
私は息を飲んだ。
「……コウ」
と、華穂が確かに言ったのだ。
彼の名前、を。
灰色の雨雲の切れ間から、淡い陽射しがこぼれるように落ちてくる。
車から出て来た煌さんが華穂を見つけて、曖昧に微笑む。
優しく、でも、とっても困った顔だった。
眩しくて、私は目を細めた。
華穂の潤んだ瞳が、冬の寂しげな陽射しを跳ね返した。
「コウ!」
華穂は、泣いていた。
と品良く微笑み、煌さんは車に乗り込んでドアを閉めようとする。
「……待って!」
閉まりかけたドアを力ずくで制御して、私は煌さんから携帯電話を奪い取り、大至急ナンバーを打ち込んだ。
そして、それを突っ返した。
「これでいいですか?」
「ええ」
ディスプレイを見つめて、煌さんが頷く。
「確かに」
「ですから、もうここへは来ないでください」
煌さんは携帯電話をぱたりとたたみ、スーツの内ポケットにしまった。
「約束しましょう」
ほっと畝を撫で下ろした次の瞬間、斜め背後で物音がした。
振り向く先に立っていたのは、華穂とその部下だった。
「……華穂?」
明らかに、彼女の様子がおかしい。
雨上がりのまだ濡れているアスファルトに白い携帯電話と財布、それから、数枚の書類が散乱していた。
「チーフ! 何してるんですか」
慌てて書類を拾い集める部下の横で、華穂は雷に打たれたように立ち尽くし、唇を震わせ、黒光りする車体を見つめている。
今にも、泣きそうな目で。
薄紅色の唇が微かに開く。
私は息を飲んだ。
「……コウ」
と、華穂が確かに言ったのだ。
彼の名前、を。
灰色の雨雲の切れ間から、淡い陽射しがこぼれるように落ちてくる。
車から出て来た煌さんが華穂を見つけて、曖昧に微笑む。
優しく、でも、とっても困った顔だった。
眩しくて、私は目を細めた。
華穂の潤んだ瞳が、冬の寂しげな陽射しを跳ね返した。
「コウ!」
華穂は、泣いていた。