フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「Je voudrais parler a Monsieur Stefan(ステファンと話したい)」
そう言った数秒後、煌さんはさらに顔色を変えて、車のタイヤを蹴っ飛ばした。
「merde! (クソッ)……trahi! (裏切ったな)」
声を出すことが出来なかった。
私の知る彼ははジェントルマンで貴公子で、穏やかで、冷静で。
だから、動揺を露わにする煌さんを目の前にして、目を丸くするしかなかった。
フー、フー、敵を威嚇する野良猫のように肩で呼吸をしながら、煌さんは声を絞り出すように言った。
「Son of Kujo……oui……Au cun autre(他にいない)」
今……。
「ねえ、今、九条って」
呟いた私の顔を覗き込んで、華穂が目を丸くした。
「牧瀬ちゃん、フランス語分からないって言っていなかった?」
「全く分からないわ。でも、今、九条って」
「……そうね。言ったわね」
頷いたあと、華穂は今にも吹き消されそうな細々とした声で言った。
「煌の宿敵よ。彼が唯一恐れて、でも、認めている相手ね。九条グループの御曹司」
ずっと、ずーっと昔から、そして、今も。
そう、華穂は言い、取り乱す煌さんを見つめ続ける。
聖母のように慈しむような、慈愛に満ちた目。
でも、全てを知りつくした悲しみに満ちた目で。
「……demandera(頼んだよ)……Oui、Merci(ありがとう)」
チャオ、と話し終えた煌さんが大きな溜息を落として、こちらに向いた。
「東子さん、すみません。トラブルが起きましたので、急ぎます。また、連絡します」
と私には日本語で、
「Kaho……tu as passe visite Pont Neuf? (君はあの日、ポン・ヌフへ行った?)」
と華穂にはフランス語で言い、一礼した後、即座に車に乗り込み去って行った。
華穂は黙り込んで、みるみるうちに小さくなって行く車を見つめていた。
冬の澄んだ空気が、たった今走り去った車の排気ガスでむせ返りそうなほど濁っていた。
不意に華穂と目が合う。
そう言った数秒後、煌さんはさらに顔色を変えて、車のタイヤを蹴っ飛ばした。
「merde! (クソッ)……trahi! (裏切ったな)」
声を出すことが出来なかった。
私の知る彼ははジェントルマンで貴公子で、穏やかで、冷静で。
だから、動揺を露わにする煌さんを目の前にして、目を丸くするしかなかった。
フー、フー、敵を威嚇する野良猫のように肩で呼吸をしながら、煌さんは声を絞り出すように言った。
「Son of Kujo……oui……Au cun autre(他にいない)」
今……。
「ねえ、今、九条って」
呟いた私の顔を覗き込んで、華穂が目を丸くした。
「牧瀬ちゃん、フランス語分からないって言っていなかった?」
「全く分からないわ。でも、今、九条って」
「……そうね。言ったわね」
頷いたあと、華穂は今にも吹き消されそうな細々とした声で言った。
「煌の宿敵よ。彼が唯一恐れて、でも、認めている相手ね。九条グループの御曹司」
ずっと、ずーっと昔から、そして、今も。
そう、華穂は言い、取り乱す煌さんを見つめ続ける。
聖母のように慈しむような、慈愛に満ちた目。
でも、全てを知りつくした悲しみに満ちた目で。
「……demandera(頼んだよ)……Oui、Merci(ありがとう)」
チャオ、と話し終えた煌さんが大きな溜息を落として、こちらに向いた。
「東子さん、すみません。トラブルが起きましたので、急ぎます。また、連絡します」
と私には日本語で、
「Kaho……tu as passe visite Pont Neuf? (君はあの日、ポン・ヌフへ行った?)」
と華穂にはフランス語で言い、一礼した後、即座に車に乗り込み去って行った。
華穂は黙り込んで、みるみるうちに小さくなって行く車を見つめていた。
冬の澄んだ空気が、たった今走り去った車の排気ガスでむせ返りそうなほど濁っていた。
不意に華穂と目が合う。