フィレンツェの恋人~L'amore vero~
私たちはどちらからともなく苦笑いをして、同時に踵を返した。


「驚いた。牧瀬ちゃんと煌が知り合いだったなんて」


「それは私の台詞よ。驚いたどころの話じゃないわ」


あーあ、ついにばれちゃった、と華穂が苦笑いした。


「私のトップシークレットだったのよ」


華穂は7年前、語学留学先のパリで煌さんと交際していた事を明かしてくれた。


「心臓止まりかけたわよ。もう、二度と会う事はないと思っていたもの。まさか、再会すると思っていなかった」


これっぽっちも思っていなかったもの、と言った華穂は笑っていたけれど、明らかに無理しているのが分かった。


今になって思い返すと、なぜ気付かなかったのかと不思議だった。


フランス、パリ。


華穂の語学留学。


ぺらぺらのフランス語。


ふたりには幾つもの共通点があったのに。


「……そう。交際していたのね」


言った私の手元を見て、華穂がにっこり微笑んだ。


「もらったの?」


「え?」


それ、と華穂が指さした。


「それ、FAUCHON」


「あ、そうなの。おみやげって。薔薇の花びら入りの苺ジャムだって言っていたわ」


「良かったわね、牧瀬ちゃん」


大事にされてるんだ、と華穂がふいっと目を反らした。


「……嫌だ、華穂」


完璧に、誤解されている気がする。


「勘違いしないで。煌さんとはそういう関係じゃないわ。会ったのは今日が2度目よ」


「え? 付き合っているんじゃないの?」


「ああ、やっぱり誤解していたのね。違うわ。あのね、実は……」


先日のフレンチディナーの件を白状すると、華穂はぷはっと吹き出して立ち止まった。


「無駄よ、無駄」


「え?」


「煌に嘘なんて通じないわ。彼は……繊細な人だから」


と華穂が曖昧に微笑んだ。

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