フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「エリートだし、毅然としているし、物怖じしないように見えるでしょう?」


華穂の問いに、私は迷うことなく頷いた。


「でも、本当は弱い人なの。とてもとても、弱い人よ……」


行こう、と華穂が歩き出す。


私たちはのらりくらりと歩き出した。


もう、午後の業務が始まる時間なのに、どちらも急ごうとはしなかった。


「初めて煌と会ったのは、7年前の夏。その時、私は17歳、煌は20歳になったばかりだった」


センサーが私たちに反応して、正面玄関の自動ドアが開く。


「牧瀬ちゃん」


入るなり華穂は私の腕を引っ張って、ドアの横に置かれている大きな観葉植物の陰に、隠れるように移動した。


「私のトップシークレット、聞いてくれる?」


と華穂は言い、そばにあった正方形の小椅子に座った。


私は観葉植物越しから受付カウンター覗いて、平賀彰子があくびをしている姿を確認して、頷いた。


「暇そうだから。聞かせて」


と私も小椅子に腰を下ろした。


「ありがとう。あのね……」


華穂は7年前の出来事を吐き出すように話し出した。


彼との出逢いを運命だとしか思えなかった、そう言いながら。


なぜ、牧瀬ちゃんが泣くのよ、と華穂は笑ったけれど、私はどうしても笑い返すことができなかった。


勝手に涙があふれて、胸が裂かれる思いだった。


痛くて、痛くて、苦しくて。


ただただ、切なかった。


「……そういうわけよ。今まで、誰にも話した事のない、私のトップシークレット」


と華穂が小椅子を立ち、スーツのジャケットの裾をピシと引っ張り正す。


凜、とする華穂の横顔に聞いた。


「トップシークレットを、どうして私に話したの?」


「そうねえ」


ふふっと困ったようにはにかんで、華穂は伏し目がちに笑った。


「もしかしたら、彼を嫌いにならないで欲しいのかもしれないわ」


「……煌さんのこと?」


「うん。煌は、誤解されやすいのよ。誤解されるの、いつも。不器用なだけなのに」


じゃあ、と仕事に戻ろうとした華穂を私は呼び止めた。


「何?」


振り向いた華穂はいつもと変わらない爽やかな笑顔に戻っていた。


「今でも……想っているの? 彼のこと」
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