フィレンツェの恋人~L'amore vero~
『本日はJPL国際航空をご利用いただき、誠にありがとうございます』


空港?


『……あ……し……しもし……』


『只今から、御搭乗の最終のご案内をさせていただきます。アールフランス航空、フランス・パリ行き18時発252便をご利用のお客様は、搭乗口8番から御搭乗ください』


繰り返します、と繰り返されるアナウンスを聞きながら時刻を確認した。


17時40分だった。


「……あのっ」


もしかして。


「煌さん?」


少し大きな声で聞くと、聞き覚えのある声が返って来た。


『なぜ分かったのですか!』


やっぱり。


私はくすくす笑いながら答えた。


「今、空港にいらっしゃるんですね。アナウンス、はっきり聞こえましたから。フランス・パリ行きだって」


ああ、そうか、と煌さんの声は明るいもので、なぜかほっとした。


それはおそらく、華穂から聞いてしまったからなのだろう。


彼の過去を。


『実は、急遽、早い便で向こうに戻らなければならなくなりまして』


「そうですか。どうぞ、お気をつけて」


すると、ありがとう、と煌さんは急いでいるのか早口で言った。


『今日は突然、申し訳ありませんでした。またすぐに日本へ来る用事がありますので、また食事に誘ってもよろしいですか』


だから私も急ぎ口調で返した。


「ええ、ぜひ。それと、ジャム、ありがとうございました」


『いえ。あ、それともうひとつ――』


と煌さんの声は、


『タカツカサコウ様、タカツカサコウ様。8番搭乗口までお急ぎ下さい』


そのアナウンスで全てかき消されてしまった。


結局、煌さんが何を言ったのか、分からなかった。


『ああ、すまない。ファイナルコールがかかってしまいました。行きます』


煌さんの声の後ろでガラガラと音がする。


キャリーケースを引いて颯爽と歩く彼の姿が目に浮かんだ。

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