フィレンツェの恋人~L'amore vero~
『次回は和食にしましょう。では』


またご連絡差し上げます、その声を最後に、電話は一方的に途切れた。


ツー、ツー、と機械的な音を何度か聞いたあと、私も電話を切った。


煌さんは強引なのか控えめなのか、よく分からない人だ。


けれど、もう、今までのような警戒心はない。


その理由は、明らかでひとつだ。


華穂の話を聞いてしまったからだ。


でも、どうしてか、もう一度会ってみたいと思った。


もう一度会って、今度はちゃんと目を見て話をしてみたい、と。


「へんな人」


私は携帯電話をバッグへ放り込み、再び、アルマーニのジャケットを手にした。


ずっしりと重いスーツからは雨の匂いとハルの香水の入り混じった曖昧な香りがした。


「ここにもへんな子がいるわ」


一流ブランドのスーツを、まるで脱ぎ捨てたパジャマのように扱うような子。


無残にもアルマーニのジャケットがしわになっている。


「これは、クリーニング行きね」


私は小さく笑って、ジャケットをハンガーにかけようと思った。


ジャケットをばさりと広げて蛍光灯にかざした時、ばさばさと音を立てて何かが床に落ちた。


「あっ……」


2冊のパスポートだった。


赤というより、ワインレッドの。


青というより、インディゴブルーの。


ふと、脳裏に蘇えったのはあのイニシャルだった。


2冊のパスポートを拾い、ゴクリと息を飲む。


見てみようか。


これには、ハルのフルネームなどが記載されているはずだ。
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