フィレンツェの恋人~L'amore vero~
着信 Stefan Grosso
「ステ……ファン……グロ……?」
ふと思い出したのは、昼間の煌さんの流暢なフランス語だった。
――Je voudrais parlara a Monsieur “Stefan”
あの時、彼が何を言っているのかなんて理解できなかったけれど。
確かに彼は“ステファン”と口にした。
今朝方、ハルも。
ステファン、と口にした。
しつこかった着信音が息絶えるようにふつりと途絶えた。
室内は瞬時に静まり返り、暗くなった。
とくとく、脈が速くなる。
私の耳が確かならば、ふたりとも言った。
奇妙な胸騒ぎに背を向けて寝室を出ようとした時、ポロロン、とたった一度だけ音が鳴った。
まるで、私を呼び止めるような、絶妙なタイミングだった。
振り返ると使用していないクローゼットの中から、蛍光色の光が漏れ出していた。
私はクローゼットの扉を開いた。
使用していなかったからなのか、ぎぎ、と鈍い音がした。
中には開かれたままの、起動したままのノートパソコンがあった。
そこに膝をついて、画面を覗き込む。
「何……これっ……」
漆黒の背景画面に蛍光色の緑色のローマ字と数字が複雑に入り組んだものがびっしりと埋め尽くしている。
背景が動いているのか、その文字が動いているのか。
マウスに触れたわけでもないのに、誰かに遠隔操作されているかのように、画面が勝手に動いている。
ディスプレイから放たれる、深海のように薄気味悪い光が頬に染み込んで行く。
無意識のうちだった。
気付いた時、私はパソコンの横にあったコードレスのマウスに右手を乗せていた。
画面が流れるように動く。
ふと視界に入って来たものがあった。
パソコンにusbが差し込まれている。
このデータを読み込ませているのだろうか。
ブウン、とパソコンが唸る。
とっさにマウスから手を離して、かきむしるようにカーペットを握った。
「ステ……ファン……グロ……?」
ふと思い出したのは、昼間の煌さんの流暢なフランス語だった。
――Je voudrais parlara a Monsieur “Stefan”
あの時、彼が何を言っているのかなんて理解できなかったけれど。
確かに彼は“ステファン”と口にした。
今朝方、ハルも。
ステファン、と口にした。
しつこかった着信音が息絶えるようにふつりと途絶えた。
室内は瞬時に静まり返り、暗くなった。
とくとく、脈が速くなる。
私の耳が確かならば、ふたりとも言った。
奇妙な胸騒ぎに背を向けて寝室を出ようとした時、ポロロン、とたった一度だけ音が鳴った。
まるで、私を呼び止めるような、絶妙なタイミングだった。
振り返ると使用していないクローゼットの中から、蛍光色の光が漏れ出していた。
私はクローゼットの扉を開いた。
使用していなかったからなのか、ぎぎ、と鈍い音がした。
中には開かれたままの、起動したままのノートパソコンがあった。
そこに膝をついて、画面を覗き込む。
「何……これっ……」
漆黒の背景画面に蛍光色の緑色のローマ字と数字が複雑に入り組んだものがびっしりと埋め尽くしている。
背景が動いているのか、その文字が動いているのか。
マウスに触れたわけでもないのに、誰かに遠隔操作されているかのように、画面が勝手に動いている。
ディスプレイから放たれる、深海のように薄気味悪い光が頬に染み込んで行く。
無意識のうちだった。
気付いた時、私はパソコンの横にあったコードレスのマウスに右手を乗せていた。
画面が流れるように動く。
ふと視界に入って来たものがあった。
パソコンにusbが差し込まれている。
このデータを読み込ませているのだろうか。
ブウン、とパソコンが唸る。
とっさにマウスから手を離して、かきむしるようにカーペットを握った。