フィレンツェの恋人~L'amore vero~
ハルは一体、何をしているのだろうか。


画面を埋め尽くす文字や数字は一体……。


ぐるぐる、目が回りそうだ。


usb本体に、何かが書かれてある。


「T、K、G……os……」


それが何を意味するのかなど、分からない。


でも、手に不快な汗を握っていた。


ハルは一体、何をしようとしているのだろう。


眉を寄せて画面を流れる文字を見つめていると、


「東子さん」


冷たく突き刺さるような感情の無いその声に、心臓が飛び跳ねた。


振り向くと、ハルが立っていた。


ソープの香りと、エキゾチックな声が降ってくる。


「何をしているの」


ぞっとした。


「あの……ハル……」


「何を、しているの」


暗い空間に、ハルの真っ白な歯が不気味に浮かび上がる。


ぱさり、とバスタオルを落としてニタ……とハルが口角を上げた。


殺されるかもしれない。


そう思ったわけではないけれど、それと良く似た恐怖のようなものが背筋を這った。


「ハル、違うのよ……」


「ああ、いいんだよ。どうせ、見たって東子さんには分からないだろうからね。ぼくは怒らないよ」


「……違うのよ」


見るつもりはなかったのだと説明したいのに、ハルの表情がこの世のものとは思えないほど奇怪で、喉に声が引っかかる。


ぬらりと立ち、私を見下ろすその目は妖気漂うような薄気味悪さだった。


お風呂上りのハルの髪の毛はつやつやと黒光りしている。


ハルが薄笑いを浮かべながら言った。


「いいんだよ、本当に。どうせ、東子さんには理解できないのだから」


私は、やはり、ハルの事を何も知らないのだ。


朝の子供のように無邪気なハル、夜の大人びた色気のあるハル。


私が知る限りのこの子は、おそらく偽物ではないだろうか。


「さあ、どいてくれ」


やわらかな口調で言いながら、ハルは私の腕を乱暴に掴んだ。


皮膚を貫通して、骨が軋むような強さだった。


「立って!」


大きな声を出して、ハルが攻撃的な目で睨んで来る。


私が立ち上がると、今度は暴力的な目で睨んだ後、冷血に言った。


「一人にしてくれないか。あと少しで終わるんだ」


「終わるっ、って……」


「終わるものは終わるんだ!」


心臓が止まるのかと思った。


どっしりと座ったハルの目が、私を硬直させた。
< 235 / 415 >

この作品をシェア

pagetop