フィレンツェの恋人~L'amore vero~
変な男よ。


どこか変。


変わってるわ。


でも、とっても気さくで明るくて、冗談が大好きで、そうね。


笑った顔がとにかく素敵ね、と、そう言って、


「Kaho. Bonne journee. (素敵な一日を)」


とふんわりと包み込むように私をハグしてくれたジョゼットからは、桃のような甘く優しい香りがした。


「Merci beaucoup. (ありがとう)vous sussi,Jousset (あなたもね、ジョゼット)」


本当にとても良く晴れた休日だった。


見上げた空はどこまでも水色で、雲ひとつ浮かんでいなくて。


暑くてたまらないのに、風邪は心地いいほど爽やかで。


街中の街路樹の葉は陽射しを受けて深緑色に輝いていて。


そして、私はパスカルがくれたメモ帳を片手に、アパートをあとにした。


パリで日本語や英語で話しかけてくる人には十分注意するように。


フランスは、フランス語圏なのだ。


パリ街中で英語が通じるのはそのほとんどが詐欺。


パリへ来て間もない頃、ジョゼットや学校のフランス人の友人から、耳にタコができるほど聞かされてきたから、私もさすがに自信があった。


そして、過信していたのも事実だった。


サクレクール寺院周辺には「子供スリ」が居るから気を付けなさい。


バッグはきちんと口を締められるようなものにしなさい。


口が開いたバッグで地下鉄に乗ってごらんなさい。


スリに「どうぞ」と言っているようなものよ。


それだけじゃないわ、とジョゼットは念には念を押して忠告してくれたのに。


「もう……何なのよ。全然つながらないじゃないの」


私はポン・ヌフの中央にあるアンリ4世の騎馬像の下に突っ立って、苛立っていた。


何度掛けてみても、電話に出ないのだ。


いや、正確にいうと、留守番電話に接続されてしまうのだ。


コウが来るまでそこを動いては駄目よ、いいわね、華穂。


「……でも、ここに突っ立っていてもねえ」


perte de temps(時間の無駄よ)と呟きながら、プリペイド携帯をバッグへ放り込んだ。

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