フィレンツェの恋人~L'amore vero~
見上げれば、抜けるようなパステルカラーの空。


真下を穏やかに流れるセーヌ川は群青色で。


右手に見えるは、シテ島のコンシェルジュリー。


フランス革命時の牢獄として有名なその建物でさえ、今の私には厳粛なお城にしか見えない。


「せっかくのフランスよ。パリよ」


何件も着信を残しているんだもの。


きっと今に向こうから折り返しの電話があるはずだわ。


そうしたら、その時に事情を話して合流すればいい話だもの。


アンリ4世の騎馬像を見上げた時、爽やかな風が吹いて私の髪の毛をさらさらとなびかせた。


「うん、そうよ」


それに、こんなにも良いお天気なのに、待ちぼうけだなんてもったいなさすぎる。


私はしゃんと伸ばした背中をコンシェルジュリーに向けると、右岸方向へ向かって颯爽と歩き出した。


橋を渡って、まず、人の流れに乗って左手に歩き出す。


方角を示す標識に書かれた文字を見て、胸が踊る。


【Musee du Louvre】


ルーヴル美術館。


私は目の前に見える巨大な建物を目指して速度を上げた。


でも、真っ直ぐにルーヴル美術館に向かっていたはずなのに、気付けば後から後から通行人が私を追い越して行く。


「……なんて、綺麗なの」


私は、何か不思議な糸か何かで引っ張られるように、ゆっくり一歩ずつその建物を目指していた。


セーヌ川の美しさ、雅たゆかしい街並みに、私はすっかり魅了されていた。


ジョゼットの忠告をすっかり忘れるほどに。


いいわね、華穂。


ルーヴル美術館の裏通りにひとりで行っては駄目よ。


何が起こっても、運が良くない限り助けてもらえないから。


裏通りに行くと一気に人気が少なくなって、危険だから。


まあ、コウが一緒なら心配する必要はないけれど。


「わあ……本当に素敵」


それなのに私はパリの華やかな美しさにぼんやりしてしまって、


「こんなところに教会があったなんて」


気付いた時にはセーヌ川沿いをふらふらした後、東に向かって裏通りに迷い込んでいた。


そこは表の大通りとはまるで別世界で、ひっそりと静まり返り、同じパリとは思えないほど閑寂としていた。
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