フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「綺麗だね、今日の水色は特に。僕のいちばん好きな色だ」


本当ですね、と声には出さずに心の中で返事をした途端に、もう本当に止まらなくなってしまった。


嗚咽を漏らして泣きだした私に、


「付き合うよ」


とだけ言って、彼はそれ以上何も聞いて来なかったし、言ってこなかった。


バッグを抱きしめて道の片隅でおんおん泣く私の横に座って、何をするわけでもなく、ただ寄り添っていてくれた。


まるで空気のように、極自然に、さりげなく。


それがどうしたというわけでもなかったけれど。


妙に心地よくて、私はこの4ヶ月間ため込み続けて来た孤独を吐き出すように、泣き続けた。


私の泣き方がすすり泣きに変わって、ようやく落ち着き始めた時、


「5分。いや、3分でいいな。僕に時間をくれる?」


と彼が聞いて来た。


私は小さく頷いた。


久しぶりに泣いたせいなのか、頭は重くぼんやりしている。


「ここを動かないと約束して」


約束も何も。


泣き疲れて動く気にもなれない。


「3分後に、必ず戻って来る」


私はすんと鼻をすすって、もう一度頷いた。


そして、3分後、彼が戻って来た。


信じて待っていたわけではないし、信じていなかったわけでもなかったけど、ほっとした。


「おまたせ」


眩しい笑顔の額に大粒の汗を滲ませて、片手には焦がしたキャラメル色の紙袋をぶら下げて。


「さて。これから何をすると思う?」


彼は悪戯が趣味のインチキ博士のようにニヒと笑って、紙袋から次々にそれらを取り出し、私の前に並べた。


「これは、ミネラルウォーター」


次は毒々しい程に濃くてヴィヴィットな緑色の液体入りの瓶。


【Sirop Menthe】とラベルに綴られている。


「これ、知ってる?」


彼の問いに、私はふるふると首を振ってみせた。


「まあ、簡単に説明すると、植物や果物のエキスに砂糖と水で作った、一種の解毒剤だね」


フランスではポピュラーだよ、と彼は人懐っこく笑った。


「色は毒々しいけどね。大丈夫さ。毒ではないから」


真っ白な歯をこぼれさせた彼は、最後にプラスチックのカップを取り出した。
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