フィレンツェの恋人~L'amore vero~
カップの5分の1ほどに緑色の液体が注がれる。
そこにたっぷりのミネラルウォーターが注がれていった。
毒々しかった真緑色が薄まり、クリアなグリーンに変色していく様を、私はぼんやりと見つめていた。
「綺麗だろう」
それを水色の夏空にかざして得意げに言った彼に、私はこくりと頷いた。
「まあ、僕に騙されたと諦めて。飲んでみて」
と今度はわくわくした目で、カップを私に差し出して来る。
返事もせず、受け取ろうともしない私に、彼はフランス語で一言だけ言った。
「antidoce. (解毒剤だよ)」
おそるおそるそれを受け取り、匂いを嗅いでみる。
メントールのような爽快感あふれる香りが、鼻の奥を突き抜けていった。
一口、飲んでみた。
「……あま」
ひんやりと冷たくて、爽やかで、心がすうっと軽くなっていく。
その甘さはこざっぱりとしていて。
「Menthe a l'eau (マ・ンタロ)」
「……マンタロウ?」
小首を傾げてみせると、彼はもう一度繰り返しながら頷いて、
「Menthe a l'eau」
紙袋に液体の瓶とミネラルウォーターのペットボトルを戻し入れながら、頷いた。
これは、マ・ンタロという「ミント水」だよ、と。
「ミントにはこんな効能があるんだ」
神経の疲労や鬱状態、それから不安感を和らげる。
暑い時には冷却して、寒い時は温める。
そんな効果があるのだ、と。
「ね、引っ込んだだろ。涙」
指さされて、ハッと気付く。
頬を濁流のように伝い落ちていた涙はもうすっかり引けて、体内をぐるぐる廻っていた膨大な不安はすっかり消え失せ、ミントの清涼感が私の体の熱を沈めていた。
「僕の母はとても弱い人だから、よく泣くんだけど。これを飲むと不思議とすっきりするんだって、いつも言っているから」
へへ、と笑った彼はどこか寂しげに見えたし、少しだけ。ほんの少しだったけれど、胸の奥が締め付けられた。
その横顔を見つめていると、
「Oh……la la! (しまった!)」
突然、彼がカエルが跳ねるような勢いで立ち上がった。
そこにたっぷりのミネラルウォーターが注がれていった。
毒々しかった真緑色が薄まり、クリアなグリーンに変色していく様を、私はぼんやりと見つめていた。
「綺麗だろう」
それを水色の夏空にかざして得意げに言った彼に、私はこくりと頷いた。
「まあ、僕に騙されたと諦めて。飲んでみて」
と今度はわくわくした目で、カップを私に差し出して来る。
返事もせず、受け取ろうともしない私に、彼はフランス語で一言だけ言った。
「antidoce. (解毒剤だよ)」
おそるおそるそれを受け取り、匂いを嗅いでみる。
メントールのような爽快感あふれる香りが、鼻の奥を突き抜けていった。
一口、飲んでみた。
「……あま」
ひんやりと冷たくて、爽やかで、心がすうっと軽くなっていく。
その甘さはこざっぱりとしていて。
「Menthe a l'eau (マ・ンタロ)」
「……マンタロウ?」
小首を傾げてみせると、彼はもう一度繰り返しながら頷いて、
「Menthe a l'eau」
紙袋に液体の瓶とミネラルウォーターのペットボトルを戻し入れながら、頷いた。
これは、マ・ンタロという「ミント水」だよ、と。
「ミントにはこんな効能があるんだ」
神経の疲労や鬱状態、それから不安感を和らげる。
暑い時には冷却して、寒い時は温める。
そんな効果があるのだ、と。
「ね、引っ込んだだろ。涙」
指さされて、ハッと気付く。
頬を濁流のように伝い落ちていた涙はもうすっかり引けて、体内をぐるぐる廻っていた膨大な不安はすっかり消え失せ、ミントの清涼感が私の体の熱を沈めていた。
「僕の母はとても弱い人だから、よく泣くんだけど。これを飲むと不思議とすっきりするんだって、いつも言っているから」
へへ、と笑った彼はどこか寂しげに見えたし、少しだけ。ほんの少しだったけれど、胸の奥が締め付けられた。
その横顔を見つめていると、
「Oh……la la! (しまった!)」
突然、彼がカエルが跳ねるような勢いで立ち上がった。