フィレンツェの恋人~L'amore vero~
おかしな人だった。


とても親切で、とてもとてもおせっかいで、でも、とてもとてもとても、親切だった。


私は、彼が作ってくれた解毒剤をごくごく飲んで、半分ほど残ったそれを空にかざして、小さく吹き出して笑った。


カップの中に陽射しが集まる。


きらきら、煌めく。


その光を彼のようだと思ったし、彼を煌めきのような人だったと思いながら。


シャープな輪郭と、短い黒髪と。


きりりとした目元と、整った顔立ちと。


明らかに東洋めいた顔の造りと、流暢とぎこちなさが上手に混ざり合う日本語と。


だけど、その容姿端麗な外見とオーラにはヨーロッパ貴族のような美しさがあって。


私には、煌めいて見えた。


「Merci (ありがとう)」


私は空にかざした解毒剤に微笑んで、残り半分を一気に飲み干して、ふううっと息を吐き切った。


すっきりとした清涼感が、私の体から毒素を抜いていった。


「……あ。そうだわ」


戻ろう。


もしかしたら、コウ タカツカサが来ているかもしれない。


もしかしたら、携帯電話を忘れて来たのかもしれないし、はたまた、知らない番号からの着信には出ない人なのかもしれないし。


それに、ジョセットが言っていたもの。


彼は必ず来るから、って。


コウは遅刻が得意だけど、約束は守る人だから、って。


戻ろう、ポン・ヌフに。


と、歩き出したその時、バッグの中から着信音が漏れ出した。


アスファルトに紙袋を置いて、急いでプリペイド携帯を取り出す。


確認すると、まさにコウタカツカサの番号だった。


「Allo (もしもし)」


『Allo! Kaho Komine? あ、いや……コミネカホさんですか?』


と日本語に切り替えて聞いて来たその声に、私も「はい」と日本語で返した。


『ああ、やっぱり。タカツカサです。良かった、着信の履歴があったのでもしかしたらと、かけ直したところでした』


今、どこに居ますか、と彼に聞かれて、とっさに「ごめんなさい」と謝った。


電話越しに「えっ」戸惑う彼の声と、周りの雑音が聞こえる。
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