フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「父は確かに、とても紳士だよ。でも、金に目がない。金儲けが絡んで来ると、人が変わるんだ」


ああ、もう。


本当に驚いた。


「煌って……すごい人だったのね」


まず、とにかく驚いたのは、こんなにも気さくな煌がフランスは勿論のこと、日本でも有名な外資系企業の御曹司であることだった。


「知らないかな。鷹司グループ。一応、日本の東京にも支店があるんだけど」


勿論、知っていたけれど。


かといって、詳しいというわけでもなかった。


「名前くらいは知っているわ。有名だもの。けれど、まさか煌がその御曹司だったなんて」


すごい人だったのね、と一回目よりも強い口調で繰り返すと、煌は少し背中を丸めた。


「僕は何も。すごいのは祖父と父だから。僕はただ、鷹司の家に生まれただけで何もしていない」


と煌はげんなりしていたけれど。


やっぱり驚かずにはいられなかった。


セーヌ川沿いの通りは休日を過ごす人たちで溢れていたけれど、私の目には映ってこなかった。


私の目は磁石に吸い寄せられるように、煌の横顔に釘づけだった。


日本にも友人はいるし、男の友達だっている。


でも、煌のような人と知り合ったのも話したのも、始めてだった。


煌はきっと、いいえ、確実に。


今まで出逢ったことのないエリート中のエリートだったのだから。


フランスでは大企業で課長以上の管理職、あるいは官公庁に勤めるには、グランゼコールを出ていなければそれは難しい。


グランゼコールとはフランス独自の高等専門教育機関のことだ。


フランスに約200校ほどあり、いずれも専門分野においての高度専門職養成機関になっている。


「EASP欧州経営大学院生だよ。一応ね」


「すごい! じゃあ、煌はバカロレアを?」


「よく知っているね。まあ、必然的にそうなるね」


「すごいじゃない……」


私は英語ばかりはどうしてか苦手だけれど、救いようのないバカではないと思う。


語学留学をすると決めた時、それなりにフランスの教育について調べた。


「EASPって言ったら、商業系グランゼコールの名門の中の名門じゃないの」


「さすが、語学留学してくるだけのことはあるね。調べたの?」


「もちろんよ」
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