フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「煌」


「なに?」


「とっても不思議なのだけど。私ね、この教会を一目見た瞬間に、自分でも信じられないくらいに心を奪われてしまったの」


それで、何かに吸い寄せられるように、この狭い通りに迷い込んでいた。


鐘楼の正面には、時計。


「綺麗な青色」


ロイヤルブルーの文字盤を、星座の像が囲んでいる。


「Eglise saint-Germain-l'Auxerrois」


と、煌が教会を指さした。


「サン・ジェルマン・ロクセロワ?」


「そうだよ。知らない?」


「ええ。今初めて知った。知らなかったわ。まさかルーヴル美術館の裏に、こんなにも美しい教会があるなんて」


南面には気圧計。


それもロイヤルブルーの文字盤にゴールドの文字で、ひときわ輝いて見える。


その下には彫刻の聖人が居て、その斜め下方向から彫刻の天使がじっと見つめていた。


天使を見つめながら、煌がぽつりと口にした。


「15歳の夏だった。5歳になったばかりの弟と、初めて会ったのが……ここだった」


「……初めてって……どういうこと?」


首を傾げた私にどこか寂しげな笑顔を落とした煌は、口を開こうとはしなかった。


ただ、切なさを必死に隠すように、微笑んでいるように見えた。


だから、私もそれ以上に聞こうと思わなかった。


煌はおそらく言いたくないのだと、私なりに察した。


手を繋いだまま中に入ると、座編みの椅子が所せましと並んでいて、中に人はいなかった。


教会内は白い内装に鮮やかなステンドグラスで、厳粛な雰囲気に包み込まれていた。


「素敵ね……なんて、綺麗なの」


うっとりする私の手を引いて、煌が教えてくれた。


「13世紀から15世紀にかけてのフレスコ画。16世紀の祭壇画。あれは、17世紀のパイプオルガンだよ」


陽射しがたなびくように射し込むと、ステンドグラスが煌めきながら、ワインレッドに揺れる。


彫刻に、フレスコ画。


天上から下がるランプの明りが薄暗い教会の中を導いてくれているようだった。
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