フィレンツェの恋人~L'amore vero~
探究すればするほど、思いあぐねるほど、頭の中の糸が複雑に絡まっていく。


その糸をふつりと途切れさせたのは、うわごとのようなぼんやりとした煌のフランス語だった。


「Tu t'es donne beaucoup de peine (君は大変な苦労をしょい込んだね)」


Tu、君は、なんて言うものだからてっきり私に言ったのだと思ったけれど、どうもそうではない様子だった。


煌はぼんやりと、正面のステンドグラスを見つめていた。


まるで、そこに誰かを重ね見ているかのように、語りかけるように、明らかにフランス語ではない言葉を口にした。


「vivi lascia vivere……(自分の人生を生きて、人の人生は気にするな)」


おぼろげな口調が徐々に明確になっていく。


「Congratulazioni per l'anniversario dei 10 anni (10歳の誕生日、おめでとう)」


煌が言っている言葉の意味は、まったく分からなかった。


まるで、そこに誰かが居て、その見えない相手に話しかけるように、煌は何かを言っていたけれど。


それがどこの国の言葉なのか、私には分からなかった。


お日様が幾筋の光になってたなびくように、ステンドグラスからこぼれ落ちてくる。


「……煌?」


ワインレッド色がトワイライト色に。


トワイライト色が、ワインレッド色に。


輝きながら、煌めきながら、何度も何度も変色を繰り返すステンドグラスを、煌は魂を抜かれた人形のように見つめていた。


「煌、煌!」


私に肩を叩かれるまで、ずっと。


「……えっ」


「どうしたの、ぼんやりして」


「あ」


昼寝からふっと目覚めたような顔で「ごめん」と煌は肩をすくめた。


「何でもない。僕の独り言だよ。忘れて」


そんな事に興味はなかった。


内容などどうでもいい。


「ええ、忘れたわ」


忘れなくとも、日本語とフランス語以外ろくに理解できない私には、どうせ理解できないのだから。


ただ。
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