フィレンツェの恋人~L'amore vero~
隣に立っている煌が素敵だからなおさら、自分がみすぼらしく見える。


あと幾つ歳を重ねたら、女性らしい女性になれるのだろう。


あのバレッタが似合うような大人になれる日が、私に来るのだろうか。


「華穂、華穂」


ぼんやりと見つめ続ける私を、煌が肘で小突いた。


「君、髪の毛を切る予定は?」


「……今の所ないけど」


「そうか、うん、よし」


と煌が意を決したように、こっくりと頷いた。


「あれ、君にプレゼントするよ」


「ええっ?」


「デザインは僕に任せてくれる?」


少し待っていて、と脱いだスーツのジャケットを私に羽織らせて、煌が店のドアに手を掛ける。


「待って、ちょっと待って、煌」


慌てて彼のワイシャツを掴んで、引き止めた。


「違うの。私、そんなつもりで言ったんじゃないの、本当よ。それに、このお店……ちょっと高いわ」


ディスプレイされている雑貨たちはどれも値が張る札がついている。


学生が一時の感情と勢いでぽんぽん買えるような安易な金額ではない。


でも、煌は「大丈夫」とにっこり微笑むだけで、何の躊躇もなくすんなりと店内に入って行った。


そして、居眠りをしていた老女を起こして、少しだけ時間を掛けて選んだあと、さっさと会計を済ませて外に出て来た。


「お待たせ」


「……信じられない……本当に買ってしまうなんて」


唖然と立ち尽くす私に、煌はお洒落な包装紙にくるまれたそれを差し出して笑った。


「君のハンカチを汚してしまったお詫びだよ。これくらい奮発したくらいじゃ、罰は当たらないさ」


「お詫び……と言われても……」


そんなハンカチ、日本の百貨店のセールで買った安物なのに。


私は店内のショーケースに目を凝らして、バレッタの金額にぎょっとした。


【€ 300】


「さんっ、びゃく……ユーロ?」


日本円にして、約3万円と少し。


「ダメよ! こんなに高価な物、もらえない!」


ぷるぷる首を振って受け取ろうとしない私に、


「大丈夫、高校生の時にアルバイトに明け暮れて貯め込んだ、何に使えばいいのかも分からないお金なんだ。それに、これ、スワロフスキー素材で一点ものだって、あのお婆さんが」


と煌は半強制的に、それを私の手に握らせた。
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