フィレンツェの恋人~L'amore vero~
女の子をこんな時間まで連れまわして。


連絡ひとつよこさないような男なのに。


それでも何も悪くないと。


あなたはそう言うの?  


華穂。


あなた、どうかしているんじゃないの。


「differer (違う)……differe,Josette! (違うのよ、ジョゼット!)」


言い訳なら帰ってからたっぷり聞くわ、とやっぱりジョゼットは耳を傾けようともしてくれず、ポン・ヌフを通りかかったタクシーを拾って、私を無理やり押し込んだ。


「Josette!」


お願い、とすがりついてみても、どうにもならなかった。


ジョゼットが運転手に行き先を告げると、タクシーはすぐに走り出した。


私はシートの上に上がって、後ろの窓から煌を探した。


煌はアンリ4世の騎馬像の前に案山子のように突っ立って、私たちを乗せて加速するタクシーをじっと見つめている。


「Kaho!」


私を引きずり下ろしながら、ジョゼットは淡々とした口調で言った。


もう、煌と会ってはダメよ、と。


「Pourquoi pas! (なぜ!)」


ふうう、とジョゼットが溜息を落としながら言った。


今日の事で、煌はとうとう、私の信用を失ったの。


例え、パスカルの親友でもね。


華穂には分からないだろうけれど、とにかく、私は煌を残念に思うわ、と。


その手厳しい口調から、ジョゼットが相当興奮しているのが分かった。


だから、何を言っても、どうにもならなかった。


タクシーはみるみるうちに、ポン・ヌフから遠ざかる。


私はシートに深く沈みこんで、うつむくしかなかった。


うつむいてばかりいる私を相当落ち込んだと思ったのだろうか、それとも、冷静さを取り戻したのか。


サンジェルマン・デ・プレの駅が近づいて来た時、


「Desolee、Kaho (ごめんなさい、華穂)」


悲しい顔をしないで、と弱弱しい声でジョゼットが話しかけて来た。


私、言い過ぎてしまったわ。


何もあそこまで言うつもりはなかったはずなのに、そう言ってしゅんと肩をすくめたジョゼットにはもう、トゲトゲしさは無くなっていた。
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