フィレンツェの恋人~L'amore vero~
人間味のある、篤実な、そして、清潔な。


「誠実な優しい心を持つ、人間になりたい」


涙が膨らんで、その重みに耐えきれなくなり、こぼれ落ちそうになった瞬間に、


「煌みたいに、広い心を持つ人間になりたい」


バレッタを胸に抱き締めて、うつむいた。


「私は、あなたが羨ましくてたまらない……煌」


足元に、ひと粒、涙が落ちる。


今日。


あの教会で知った煌の過去を思い出して、張り裂けてしまいそうほどいっぱいになった。


泣きたくなどないし、泣く予定などこれっぽっちもなかったのだけど。


ひと粒落としてしまったらもう、次々にあふれて止まらなくなっってしまった。


「ごめんなさいっ……泣くつもりなんて、ないのに」


この世界は、楽しいことや嬉しい出来事で溢れている。


だけど、それ以上に辛くて悲しいどんでん返しが転がって来て、行く手を阻む。


それでも、真っ直ぐに。


自分にだけは誠実にピュアに生きている彼のような人間が存在している事に、私は完璧に胸を打たれてしまったのだ。


打ちのめされるほどに、激しく。


「これからは、あなたのように……煌のように……生きてみたい」


「華穂……」


煌の綺麗な手が、私の手ごとバレッタを包み込む。


大きくて、ぬくぬくとした手だった。


その温かさははかり知れない優しさがあって、体温となって、私の体に流れ込んで来た。


「華穂」


右肩をぽんと弾かれて顔を上げると、


「会った時から、君は泣いてばかりいるね」


煌はミントのような清涼感たっぷりに微笑んでいた。


「あ……ごめんなさ」


堪えきれずに泣いてしまった事が急に恥ずかしくなって、私は急いで煌の手をはらい、一歩、後退した。


煌がわずかに目を見開く。


「どうしたの?」


「あの、ええと……お礼を」


私は目元に残る涙をごしごし拭いて、


「ありがとうを伝えたかっただけで、その……泣くつもりなんて」


しどろもどろになりながら笑ってごまかした。


「……華穂?」


突然、ころりと態度を変えた私に、困惑気味の煌が詰め寄って来る。


「ありがとう」


ははは、と笑ってごまかしながら私も一歩後ずさる。
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