フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「Opera Garnier」


オペラ・ガルニエ。


「君の留学の締めくくりに、一緒にオペラを観に行こう」


ぎょっとしてしまった。


「無理よ、無理」


両手でムリムリとオーバージェスチャーする私に、


「無理って、どうして?」


と煌が詰め寄った。


「だって。オペラだなんて……私には敷居が高すぎるもの」


私は至って大真面目に言ったのに、


「なんだ。そんな理由か」


なんて、煌はあっけらかんとして笑うものだから、変に力が抜ける。


「行こう。オペラ。僕もまだ一度も観た事がないんだ。一緒に行こう」


「でも」


「そして、その時はきっと、このバレッタを付けて来て」


「……いいの? 私で」


「どういう意味?」


「初めてオペラを観る相手。私なんかでいいの?」


「君がいい」


その漆黒色の瞳に、ぎゅうっと胸が締め付けられる。


「あ、無理にとは言わないよ、勿論。もし君が嫌でなけれ――」


「連れて行って」


煌の話を最後まで聞かずに、


「連れて行って……下さい」


気付いた時にはもう、彼の手を掴んでいた。


「それまでにはきっと。胸を張ってこのバレッタを身に着けられるくらいの人間になるから」


「約束しよう、華穂」


煌が小指を立てて差し出して来た。


微笑む煌の小指に小指を絡ませる。


煌の肩越しに灯る上弦の月は、心が浄化されて行くような清潔な光で。


その月明かりは、包み込むように夜のパリを照らしていた。














アパルトマンへ帰ると、日付が変わっていた。


先に私が、後からジョゼットという順番でシャワーを浴びた。


夏だっていうのに、熱い熱いロイヤルミルクティーをすすりながら、私たちはリビングのソファーに沈んで、いつまでもおしゃべりをした。


ジョゼットは、パスカルと観た映画のことを。


私は一日の出来事を。


私の話にジョゼットは興味深そうに耳を傾けて、不思議なものね、信じられないわ、と笑った。


人と人の縁は不思議なものね、と。


そして、ジョゼットは煌について語り出した。
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