フィレンツェの恋人~L'amore vero~
煌はとても優しいし、笑顔も本当に素敵だけど。


それは表面上の話。


煌の心の中は焼野原で荒地なのよ。


煌は、とても孤独な過去を持つ人だから。


とても繊細だし、人の反応や表情にもとても敏感な人間になってしまったの。


ねえ、華穂。


煌はね、華穂が想像しているより遥かに、寂しい人間よ。


いつも笑っているけれど、強がっているだけ。


心を開いてくれたと思っていても、実際は違うから。


だけど。


寂しさや孤独が痛いほど分かるから、心の温かい人間であることは確かだわ。


「……Pascal,avait a dire (と、パスカルが言っていたの)」


フウ、と溜息まじりにはにかんで、ジョゼットが私の髪の毛を撫でた。


まるで、母親が子供を愛でるようなやわらかな手つきだった。


「He,Kaho……」


私は、華穂が好きよ。


とてもね。


だから、あなたを傷付ける人や泣かせる人を、私は許さないわ。


たとえ、それが煌だとしてもね。


「mais (だけどね)」


とジョゼットが微笑む。


もし、本当に、あなたたちが惹かれあっているのなら、と。


「Je soutiens maximum」


私は、応援するわ。


全力でね。


私が味方になる。


華穂。


あなたが、煌の過去と底知れない孤独を受け入れられるのならね。


そして。


これから先、例え何が待ち受けていようとも、全てを受け入れる勇気と覚悟があるのならね。


と、言ったジョゼットは笑っていたけれど、その目はひとつも笑ってはいなかった。


それはどういう意味なのかを聞くと、ジョゼットはロイヤルミルクティーの香りを楽しみながら、濁すような口調で言った。


深い意味なんてないわ。


ただ。


煌は、私たちが思うよりずっと繊細な人間だという事よ、と。


そのあと、私たちは朝陽が昇るまでリビングでおしゃべりし続けた。


朝陽がパリを包み込んだ頃、私たちはまるで力尽きるように肩を寄せ合って、どちらからともなく眠りにおちていった。












それから、私と煌は頻繁に会うようになった。


まずはエッフェル塔、シャンゼリゼ大通り、シャイヨー宮。


雨の日はルーヴル、オランジュリー、オルセー、と美術館巡り。


晴れた日は行き当たりばったりのブーランジュリーでバケットサンドをテイクアウトして、リュクサンブール公園やヴァセンヌの森、モンソー公園でゆったりと一日を過ごした。

時にはヴェルサイユ宮殿だったり、セーヌ川クルーズだったり、煌はパリ中に私を連れ出てくれた。
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