フィレンツェの恋人~L'amore vero~
学生と秘書の見習いを両立して行かなければならなくなった煌に、落ち着く日が果たしてこの先にあるのだろうか。


私にはこれっぽっちもそうだとは思えなかった。


これからもっと、今以上に忙しくなるに決まっている。


それに、どうせ、来年の春になれば、私は日本へ帰るのだ。


1年という長いのか短いのかもよく分からない微妙な期間の、語学留学が終わる。


パリでの生活が終わるのだ。


日本に帰れば、日本の大学の生活だって始まる。


どちらにせよ、煌とは会えなくなるのだから。


この片思いには、いずれピリオドを打たなければならない。


それならこのまま片思いのまま、何事もなかったのだと、帰国しなければ、えらいことになる気がする。


だから。


「Je ne veux pas etre plus comme celui-ci (これ以上、好きになりたくないの)」


これ以上、煌を好きになりたくない。


これ以上に好きになってしまったら、私は確実に、自分を見失ってしまうのではないかと、怖くなる。


「He,Josette……」


これ以上、彼にのめり込んだら、私はきっと理性さえ失ってしまうのではないかと。


そう、思う。


「C'est dur (苦しいの)」


今でさえ、潰されてしまいそうなくらい、こんなにも苦しいのに。


煌と会えない事が、こんなにも苦しいのに。


私はうつむいたままぎゅうっと目をつむり、膝の上で強く強くこぶしを握りしめた。


手のひらに爪が食い込むくらい、強く。


同じパリという地に居るのに会えないことがこんなにも苦しいのに、この距離がフランスと日本という果てしなくさえ感じるものになってしまった時、私は一体、どうなってしまうのだろう。


「Je vais retournet au japon (私は日本へ帰るのよ)」


日本で生まれ、フランスで育ち、そしてこの先の未来もフランスで生きて行くエリートな人間と。


日本で生まれ育ち、ふらりとフランスへ留学してきて、期限が来たら日本へ戻って行く普通の人間が。


あまりにも違い過ぎる境遇の中で生きて来た人間同士に、未来なんて……。


「Pour nous,il n'y a pas d'avenir (私たちに、未来はないの)」


違い過ぎたの。


私と、煌は。
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